書評

「プラチナタウン」「和僑」を徹底解説 おすすめ経済小説

こんにちは、京華です。

 

先日、経済小説のおもしろさを書いたばかりなので、

本日は、最近読んだ面白い経済小説をおすすめします。

プラチナタウン(楡 周平)

と、

和僑(楡 周平)

この2冊は続き物です。

まとめてお伝えします。

 

あらすじ(ネタバレちょっとだけアリ)

「プラチナタウン」

日本一の商社に勤める山崎は、エリート社員として充実した毎日を送っています。しかし、ちょっとした事が原因で上司の不興を買い、商社での今後の栄達が望めなくなります。

そんな折、高齢化が進み巨額の負債を抱える彼の故郷、緑原町の町長をしないかと、かつての同級生から声をかけられ、商社の職を辞し町長として第二の人生を送る事を決意します。

故郷は、若者が都会に移り住み、高齢化がすすむ過疎の町になっていました。そして、若者に魅力的な町にしようと公共設備を作り、雇用を生み出すため大規模な企業誘致地を作りますが、その効果はまったくなく、巨額の借金だけが残ってしまいました。

どのように町の再生を計るか?超高齢化社会・緑原町の自然と公共施設の豊かさからヒントをえて、山崎たちは生き生きとした老後を送れる町「プラチナタウン」の建設という夢のプロジェクトに挑みます。

 

「和僑」

プラチナタウンの成功により、復活を遂げた緑原町。町はプラチナタウンに住む老人達ばかりではなく、彼らのお世話をする職員など若者やその家族のおかげでかつてないほどの活気を見せます。

このまま町の繁栄を維持するべく、第2のプラチナタウンを建設しようという動きがではじめます。町長の山崎は、この動きに危険なものを感じます。なぜなら高齢者の地方移住の波は、団塊の世代がいなくなり、高齢者人口が減少に転じる頃には収まるからです。

プラチナタウン以外の方法で、どうやって経済的発展を維持していけるか?と、頭を悩ませているちょうどその頃、アメリカ在住の山崎の友人・時田が、たまたま故郷である緑原町に里帰りをしていました。彼は、思い出の中の故郷の変わりようを寂しげに語った後、日本の農畜産物の質の高さを褒め称えます。そこに山崎は活路を見いだします。

 

小説の読みどころ

これらの話は、あくまでも小説であり、エンターテイメントであります。

「こんなに都合良く借金まみれの地方都市が復活するわけないじゃん。現実は甘くないよ」

なんて思うべからず。

経済小説の楽しみは、小説なのにリアルに問題と直面できること。

小説というワンクッションがあるので、重い気分になりすぎずに、現在の日本が抱える問題を見据えることができます。

 

「プラチナタウン」で感じたこと

ずーっと前から言われていますが、あえて政府が取り上げたくない問題が書かれているように思います。

一つ目、少子高齢化の問題

「老後資金2000万問題」という言葉が一時流行りました。

「公的年金では足りないから、自分で2000万円用意しないと、それなりの老後は過ごせない」という問題です。

政府はすぐにその問題をあやふやにしましたが、これは寿命が延び、少子高齢化が進み公的なサポートの財源がどんどん目減りする日本で、フツーにあり得ることですよね。

(余談:団塊の世代はまだマシ。それ以後、私を含め就職氷河期の人たちなんて、人数は多いし、給料は増えないし、公的年金は少ないし、老後ひどい生活苦が待っているだろうな~と想像に難くない)

近い将来起こるはずの深刻な問題です。

自分で有料老人介護施設に入れる経済的に余裕のある人はほんの一部であり、公的年金や介護保険の限界もあらわに書かれています。

なんでも政府におんぶに抱っこというのは考えものですが、国民の自助努力を突然言い出す政府は信頼に値せず、自分の才覚を信じよ、と改めて気づかされます。

また、余生をどのように過ごしたいか?、老いてからの生きがいとは何なのか?についても書いてあります。

 

二つ目、地方の過疎化問題

私は地方都市に住んでいるので、ひしひしと感じます。

確かに若者は、就職するために、都会に行きます。

ずーっと地元にいる人もいますが、山っ気というか、冒険心というか、そういうものを持っている人は少なく感じます。

農家の後継者はお嫁さんがいないことも多いです。

地方に人が少なくなるということは、地方が疲弊していくということ。

人が少ないから、地方の税収が減って、公共サービスの低下が避けられなくなります。

土地を守る人もいなくなり土地は荒れます。

きっと食糧自給率も今より酷くなるでしょう。

東京や大阪などの大都市ばかりに注目するのではなく、どのように地方の魅力を伝え、地方の窮状を救うかなど、地方のあり方に目を向けるヒントが書いてあります。

 

三つ目、公共事業のあり方

かなり昔、1980年代終わり頃、ふるさと創生事業として各市町村に1億円を国がばらまきました。国はその一億円の使い道について関与せず、各市町村が創意工夫して地域の振興にあてなさいというものです。

自治体の規模など考慮に入れない一律1億円交付は、有効に利用した自治体もあったでしょうが、その多くは使い道に悩み、無駄遣いの典型と揶揄されることも多かったのを覚えています。ウィキペディア

(私の住む町の駅前にも、その時に作られたモニュメントがあります(泣))

 

小説のなかで、緑原町の前町長は、公共施設を作れば魅力的な町になり、過疎化が解消、地域の経済全体が潤うという、従来からの理論に基づいて、公共事業を行ってきました。

その志は、町長として町を復活させたいという純粋なもので、けっして自己の利益をはかったわけではありません。でも費用対効果を真剣に考えていたとは思えないのです。

究極のところ、税金とは、住民の為という錦の御旗を掲げれば、運用者はその使い道に責任を持たない金です。

町を借金まみれにした町長としての汚名は確かにあるでしょう。

でも、他人の金だから、テキトーに使ったのです。

主人公・山崎は、さらなる借金はできない状況だったので、金をかけずに町を再生させる方法を考えます。

彼は、民間企業を巻き込み、採算を考慮したビジネスとして、町の再生を捉えました。

ビジネスマンなのですね。

公共サービスで効率性・採算性だけを追求することは、弱者切り捨てになりかねない危険性があるとは思いますが、

公共事業のあり方を考えるきっかけになるのではないかと思います。

 

「和僑」から感じたこと

一つ目、過疎化の問題

同じ町の話です。プラチナタウンで町おこしをしても、町に元々いた人たちの人口が急に増えるわけではありません。

産業にしても、農畜産業以外の産業は、あいかわらずないままです。

前書同様、地方都市の現状が描かれています。

 

二つ目、日本の食・農畜産物の良さ

山崎の友人・時田はアメリカに長年住み、日本人・アメリカ人両方の感覚を持つ男です。

その彼が、日本の食・食材の良さを褒め称えます。生粋のアメリカ育ちの孫娘もそれに同意します。

山崎は彼の言葉に後押しされ、緑原町ブランドを海外に向け発信し始めます。

今では海外で「WAGYU」や「あまおう」など、ジャパンブランドとして高値で売られていますよね。

私も日本の食べ物のおいしさは世界でも指折りだと思っています。

ひいき目ではなく、そう思いますし、海外の友達も口々においしいと言ってくれます。

青い鳥ではありませんが、良い物は自分の身近にあって、その価値には気づきにくいものなのかもしれません。

 

三つ目、農畜産業のしがらみと地方の閉鎖性

小説の中に、インターネットを使った独自の販売システムを構築させ、農協に背を向けた農家の若者が書かれています。

田舎にあって、彼は異色の存在であり、農協を裏切った異端児でもあります。

彼は農業を収益の取れるれっきとした事業だと考えていて、農家となれ合い関係になりやすい農協に嫌気を感じ、飛び出してしまいます。

後継者のいない休閑地になるしかない土地の利用や住宅の再利用など、農業の垣根を越えて、アイデアがどんどん湧いてくるタイプの人間です。

保守的な考え方を打ち破り、楽しみながら実行していく力、採算があうか計算するしたたかさもあります。

今、会社が一生の安定を保証できない時代になって、人がいる限り絶対食いはぐれることがない産業・農畜産業に、若者が目を向けはじめてますよね。

農業を、代々家族が継いでいく「家業」ではなく、「事業」と考える柔軟性がいいし、

また、彼のベンチャービジネスの運営のしかたも、参考になるでしょう。

 

四つ目に、海外を視野に入れる

山崎は、友人時田が言ってくれるまで、緑原町の農畜産物を海外に売ろうとは思っていませんでした。日本国内のマーケットでいかに売り上げを伸ばすかに終始していました。(元商社マンなのにね(笑))

海外進出はリスクが大きいかというと、私はそうでもないような気がします。

工場を建てるみたいな大きなプロジェクトでもなければ、個人が外国人と、または、外国で小さくスタートアップするのは今はとても簡単にできます。

今後、少子高齢化で市場が小さくなっている日本だけに商売の焦点を合わせるのは、高齢者向けの商売でもない限り、私は楽しくないなと思っています。

日本を出て外国に住み稼ぐ。または、外国に日本の物を売る。リスクの分散になると思いませんか?

このように外国と繋がって、日本の良さをPRできるのもうれしいですよね。

 

まとめ

楡さんの小説は、読後すっきり、ハッピーエンドで終わる本がおおいので、安心して読むことができます。

今回は、今の日本の問題にクローズアップして解説を書きました。

それ以上にお伝えしたいのは、山崎氏の魅力ですね~

山崎や他の登場人物達が問題を解決していく姿に心打たれました。

人は、物事に取り組むとき、いつでもベストの状態ではじめられるとは限りません。

さまざまな状況下で、自分の持っている能力をいかにして発揮できるか?

アイデアをだし、解決策を考え、人脈を駆使する。

情報を探し出し、利用する。

人から助けてもらう。

いろんな方法を使って、問題に取り組むプロセスが、実におもしろかったです。

切羽詰まったときや限界に近いときに、最後まで諦めないところに、人の価値が現れますね。

 

暗いニュースを見ながら、「日本って、もう終わってるわ」と意気消沈するのもいいですが、これらの小説を読んで、問題を理解し、自分の頭で考え、自分の未来のための参考にするのもいいのではないでしょうか。